久保九段インタビュー 第2部 将棋編

2013.04.27

第2部将棋編です。第1部では根井副会長が主にインタビューされましたが、この第2部では、樫村が主に担当させていただきました。プロの世界でタイトルを通算5期保持(王将2期・棋王3期)され、順位戦ではA級(通算8期)に復帰される久保九段。トッププロが考える将棋観とはどのようなものでしょうか?振り飛車やコンピューター将棋、さらにメンタルについて取材させていただきました。

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樫村:将棋は始めたばかりでまだまだ弱いのですが、質問させていただきます。

根井:樫村君は、30周年の久保九段の講演を聞いてから将棋を始めたそうなんです。そこからグッとのめり込んだそうで。

久保:講演を聞いてくださって始めてくださるとは、嬉しいですね。私もすぐのめり込むタイプなんです。それが将棋とゴルフですね。

樫村:のめり込むタイプとのことですが、振り飛車党であるということもそれに関連していらっしゃるのでしょうか?

久保:そうですね。アマチュアの頃は居飛車を指していたんですけどね。大山(康晴)先生と升田(幸三)先生という将棋の両巨頭がいらっしゃったんですが、その2人の兄弟子の大野源一さんという方がいらっしゃったんです。その方が振り飛車名人と呼ばれていたんです。タイトルとかには届かれなかったようですが、それこそアートなんです。この将棋きれいだなと、この人みたいな将棋を指してみたいなという憧れから振り飛車党になりました。

樫村:そうなんですね。最近プロの中で振り飛車党といえば、藤井猛九段、鈴木大介八段、そして久保九段くらいですよね。アマチュアは振り飛車が圧倒的に多いそうですが。

久保:そうなんです。この間もアマチュアの将棋の審判していたんですけど、ほとんどが振り飛車なんですよ。人気はあるんですけど、プロの人では少ないんです。

樫村:この間のA級順位戦最終局でも振り飛車はほとんどいませんでした。谷川浩司会長がゴキゲン中飛車から相穴熊にされたと記憶しているんですが…、あと橋本崇載八段も振り飛車でしたね。NHK杯でも羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)が振り飛車にしそうだなと思ったら違うこともありました。

久保:なぜ少ないかと言うと、どうしても勝ちづらいと思われているフシがあるんです。やっぱり上に行く人が指していないといけませんね。自分が2、3年前にタイトルを取った時にはポッと増えたんですけど、(タイトルが)なくなったら減ってという感じです。戦形はそういった人たちに追随してという形になるので、どうしても自分が勝っていないことには増えていかないのかなと思いますね。

樫村:一時期藤井システムが大流行して、それに対する対抗形ができてというようにドンドン進化していますよね。そのなかで久保九段は石田流を蘇らせた1人ですが、最新の戦法と復古的な指し方をするのではやはり感覚が違うのでしょうか?

久保:藤井システムと石田流ではすごく感覚が違うので苦労しましたが、やっているうちにコツがわかってきました。これからも色々なことをやっていかないといけないと思います。1つのことに固執していると限界も来ると思いますし。ストレートだけでなくカーブやフォークみたいに色々なことをしていかなければいけないと思います。

樫村:藤井九段ですら「これからはウナギだけではやっていけませんよ」と話されているくらいですからね。最近では矢倉も組まれているみたいですし。でも私、美濃囲いも好きなんです。

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久保:わかりやすいですからね。飛車を横にやっておいて囲うだけなんで。だからアマチュアの人に人気なんです。

樫村:今プロ棋士とコンピューターが対局する電王戦が開催されています。

久保:将棋はチェスと違って取った駒を使えるので、コンピューターもなかなかプロレベルにはならなかったんですが、最近のコンピューターはすごいですね。第3局も加古川の船江君が対局して、かなり強い人なんですけど負けてしまいました。

樫村:すごい対局でしたよね。終盤まで競って競ってという感じで見ていてハラハラしました。終盤に(船江五段が)竜を6ニか5ニに上げたと記憶しているんですが、そのときにコンピューターが歩を打ったのでびっくりしました。そのあと竜を引いて(コンピューター)3ニ金右だったと思うんですが玉の退路をあけたのにはびっくりでした。

久保:ここまで来てしまうと、コンピューターを取り入れた研究もしないといけないかもしれませんね。

樫村:もし久保さんが今コンピューターと戦うことになってもやはり振り飛車で戦われるんですか?

久保:一説によると、ノーマル四間飛車が勝ちやすいと言われているんです。人間同士だと振り飛車が三割くらいしか勝てないんですけど、コンピューターだと七割勝つそうです。人間が(振り飛車を)ちゃんと指せていないのか、コンピューターの居飛車がちゃんと指せていないのかわかりませんけどね。

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樫村:(電王戦は)全局居飛車だったので、一局くらいは振り飛車が見たいなと思ったんです。

久保:僕も見たいですね。戦形にも向き不向きがあるみたいで、横歩取りですと8ニ角から香車を取りに行くような手をやりやすいので、その間に人間が攻めていけば勝ちやすいというのは聞いたことがあります。

根井:私にはわからない世界です(笑)

樫村:僕も指したら弱いんですけど、見ているだけなんです(笑)

久保:最近はそういう方が増えているんです。自分は指さないけど、指している棋士の方が好きだからというような見方が女性も含めて増えています。

樫村:ニコニコ動画なんかもすごいですよね。(対局中の棋士の)お昼ごはんは何でしょう?みたいなアンケートを放送中に取りますし。おやつも中継されています。

根井:それはどういうこと?

樫村:対局中に10時と3時におやつが出るんです。

久保:その注文が放送されたりするんです。そういう所が逆に興味深いと思ってくださる方もいます。将棋だけだと、タイトル戦にもなれば見ていて正直わからない部分もありますので、そういった人間らしい部分でしたら楽しめるので(笑)

根井:では加古川で対局があるときは是非「かつめし」を(笑)

久保:加古川で王将戦をやった時は注文しました(笑)

樫村矢内理絵子女流四段が好きだからNHK杯を観るという人もいますね。僕もこの女流棋士さん可愛いなあとか思ってつい観てしまいます(笑)。この棋士さん身体が揺れだしたから絶好調だなとかそういう見方もできます。

久保:手が震えるとかね(笑)

根井:それは気になるなあ(笑)

樫村:結構そういう人は多いですよ。私の恋人なんかもその1人で加藤一二三九段が大好きなんです。加藤九段はお昼ごはんは毎回「うな重」なんです(笑)

久保:(笑)

根井:ゲン担ぎなんでしょうか

久保:それもありますし、対局に集中したいというのもあると思いますよ。違う思考を入れたくないんだと思います。

樫村:ちなみに久保九段はお昼ごはんはどうされるんですか?

久保:僕は外にでることが多いんですよ。ずーっと中にいるんで、ちょっと外の空気を吸いたいなと思う時に。

根井:私の持っていたイメージと全然違いますね。もっと寡黙に寡黙にされているのかと思っていたんですが、そういう感じは大好きです。ストイックなだけでは息が詰まりますもんね。

久保:(昔は)そういう感じでやっていましたけど、ストイックにやってもやっても結果が出ないときもありましたので、「楽しむ」っていうところに辿りついたのはやはりストイックにやった後で辿りついた境地なんです。はじめはすごく言われました。負けて楽しんでも意味ないでしょって言われたこともありましたけど、自分は(結果が)出なくて辿りついた境地なんで。

根井:それで結果がでたというのは、自分の信念を貫いてできた自信ですね。僕らはそういうことを言われたら、やっぱりアカンのかなあと思ってしまうんですが、そこで信念を貫けるのが僕らと違うところですね。

久保:結果を出せばそういうことは言われなくなりますからね。信念を持たないと勝負事はやっていけないと思うんで。自分の軸と言いますか、そういうものがないといけないと思います。最終的に辿りつくのはなぜ将棋をやっているのかというところに辿りつくんですけど、やっぱり好きでやっているので、負けても幸いなことに棋士をやらせてもらっているので、くよくよするのではなく、負けても自分の将棋を指せればいいと思っています。

根井:本当にすごいですね。

久保:ここまで来ると皆さん同じレベルなんで、何が違うとなるとそういったところしかありませんね。

樫村:この人とは読みが噛み合って、高みに登れるということはありますか?

久保:逆にそういう人と指していると、テニスで言えばものすごいリターンが返ってくるんです。ゆるーいリターンは面白くないじゃないですか。もちろん負ける確率も上がりますけど、そういう戦いをしたいからやっているんです。そういう戦いができると指していて楽しいですね。今度復帰するA級順位戦はそういう戦いばかりです。すごいサーブが飛んできますよ(笑)

根井:すごい世界ですね。私たち同窓会役員も、まずは自分たちで楽しもうじゃないかというコンセプトで活動しています。自分たちが楽しくないと何事も楽しくないと思うので。久保九段を見習って、これから色々楽しいことを発信していこうと思います。

第2部 将棋編 おわり

いかがですか?久保九段の勝負師としての一面がひしひしと伝わってきませんか?久保九段は第72期順位戦からA級に復帰されます。将棋を指す人なら誰もが憧れるタイトルの一つである「名人」位を目指して戦われます。A級棋士と言えば、その誰もが名人になってもおかしくない人たちばかりです。そんな中で対局を「楽しむ」ことができる久保九段。それこそが本当に将棋が好きなんだという証明ではないでしょうか。

さて本当ならインタビューはこの第2部で終了です。ですが申し訳ありません(笑)、私、この機会に乗じて趣味の将棋について色々お聞きしてしまいました(笑)せっかくなので第3部として「番外編~教えて!久保九段~」をお伝えしたいと思います。将棋好きの方なら、ヒントになるかもしれません。最後までお付き合いください!

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Category : お知らせ

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